Chim↑Pom個展『Sukurappu ando Birudo プロジェクト 道が拓ける』がむちゃくちゃよかったのでみんなも行ってみてくれ。

 

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道が拓ける | Chim↑Pom with 周防貴之

 

もう終わってるけどな。

 

 

 (…いや、ほんとすいません………)

もちろん会期中にブログ出せたらよかったんですが(会期も延長した)、書くにあたり調べなきゃいけないことがあったり、スプラトゥーン2がおもしろすぎたりと、ぶっちゃけサボってたらもうこんな時期に…

 

それでも、8月のChim↑Pomの個展『Sukurappu ando Birudo プロジェクト 道が拓ける』を観にいって、「めちゃくちゃカッコいい…!」ってテンション上がって、このカッコよさはどうにかして伝えたいなーと思ってました(ジョイコンを握りしめながら)。

 

Chim↑Pom先輩!もう一生ついていきます!!!」って感じで惚れました。まじでカッコいいです。

 

 (あまりのカッコよさに語彙力が崩壊した感想ツイート)

 

Chim↑Pomは、

「お騒がせアート集団」とか言われたり、

Googleで「Chim↑Pom」を検索すると、予測変換で「Chim↑Pom 嫌い」って出てきたりする。

例えば、渋谷でノラネズミを捕獲し、剥製にして「ピカチュウ」にしちゃう作品『SUPER RAT』とか、コレ現代ならもう完全に炎上案件ですし、

 

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SUPER RAT | Chim↑Pom

 

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SUPER RAT (diorama) 2008 渋谷で捕獲したネズミの剥製(5匹)、渋谷の街のジオラマ、ビデオ、モニター、ほか 136×Ø87cm Photo: 梅川良満
SUPER RAT | Chim↑Pom

 

Chim↑Pomを嫌悪する人がいるのはよくわかります。

 

わかりますよ。

けど、渋谷の路上でネズミを追っかけ回してた若いチンピラ集団(失礼)が、10年のときを経て、他の追随を許さないようなぶっ飛んだ「強烈な一撃」を、欧米が支配をするアートワールドに対してぶちかました。

 

そのカッコよさを、「なぜカッコいいと思ったのか?」を、知ってほしいし理解してほしいし共感してほしい。

 

Chim↑Pomはいいぞ….」って言いたいだけなのに、いつも通りアホみたいに長文になってしまったのでわりと死にたい。

 

個展の会場をビルごとぶっ潰したChim↑Pom

 

そもそも「アート」ってご存知ですか?

 

いちど前提を共有したいのですが、

「アート」は、「好きなものを表現するモノ」です(異論は認める)。

ただし、その「好きなもの」とか「心地いいモノ」は、時代や環境によって変わってくる。

 

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www.moae.jp

 

(↑ 時代や環境によって人々の好きなモノが変わる例として秀逸すぎるやつ)

 

好きなモノは、時代や環境による影響が大きい。

つまり、「好きなモノ」の理由を突き詰めると、"個人的な快感原則"から、"時代や環境"にスケールアップする。

 

例えば、アニメが好きだった現代美術家村上隆は、そもそも「アニメを楽しむ日本人(=オタク)とは何か」を考えて、(好き嫌いというよりも)その回答を現代アートとして表現した。

だからこそ、海外のアートシーンで高い評価を獲得したのだと考えています(ひとつの要素として)。

 

では、Chim↑Pomはどういう立ち位置になるのか?

 

今展は、去年(2016年)の10月に開催されたChim↑Pomさんの個展『「また明日も観てくれるかな?」~So see you again tomorrow, too?~』の続編となる展覧会です。

 

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So see you again tomorrow, too? | Chim↑Pom

 

 

10月の個展は、新宿歌舞伎町で行われた展覧会で、会場は解体予定のビル。作品はChim↑Pomの初期代表作『Black Of Death』や、上記の『SUPER RAT』のジオラマ作品、歌舞伎町から発想を得た新作まで幅広い作品が並んでいました。

 

『Sukurappu ando Birudo プロジェクト 道が拓ける』では、歌舞伎町での展覧会をそのままビルごとぶっ潰して、その作品の残骸やビルの瓦礫を高円寺のキタコレビルに運んで、作品として再構成するという展覧会でした。

 

会場の高円寺・キタコレビルは、築約70年のバラックのような建物であり、2014年からはChim↑Pomのスタジオ兼ギャラリーとして機能している場所です。

その「自分ん家的な場所」に道を通した作品『Chim↑Pom通り』は、歌舞伎町のビルの瓦礫を埋め立てて舗装して、公共の道を作りました。
(正確には、そのほかにも渋谷パルコ、旧国立競技場の解体工事で出た瓦礫も使っている)

 

ほかにもいくつか作品はありますが、とりあえず今回は『SUPER RAT -Scrap & Build-』という作品を中心に話を進めます。

というのも、この作品が、一連のプロジェクトのタイトルにもある「スクラップ&ビルド」を体現している作品なので。

 

『SUPER RAT -Scrap & Build-』は、『SUPER RAT』のジオラマが歌舞伎町となったバージョンですが、作品は歌舞伎町のビル解体と一緒に、無残にも破壊されてボロボロになっていました。

 

で、会場でこの作品を観て「なんだこれやべえな」って思ったんですけど、その崩壊した都市・歌舞伎町のジオラマ作品の中に、生きたネズミがいました。

 

崩壊した都市(ジオラマ)と、

身動き一つしない死んだネズミ(剥製)と、

作品の中を自由気ままに動き回る、生きたネズミ。

 

なんていうか、この対比がもはや切なすぎて「うおおお………」ってなりました。

 

いや、だってこれはもう、まさに「スクラップ&ビルド」だから。

2020年のオリンピックに向けた再開発として、ビルが「スクラップ&ビルド」がされているTOKYOのオマージュである一方で、「スクラップ&ビルド」は、戦後復興のときのキーワードでもある。

 

それはつまり、

焼け野原となった都市を、

1からもういちど築き上げること。 

 

そして、死んだ街のなかに、

生きたネズミがいるということ。

 

『SUPER RAT』は、路上でネズミを追っかけ回してた若いアーティスト集団のポートレートとして始まった作品です。

 

しかし、ふと気がつけば、それは"日本人"のポートレート作品としても機能している。

 

少なくとも、

2011年を経て、2017年を生きている私は、炎上案件だったネズミの剥製が、"ここ"で接続してきたモノの重さに呻き声を上げつつ、それを背負って立つChim↑Pomのカッコよさに惚れました。

 

個人の“何か”が時代と重なる瞬間が、僕はとてもカッコいいと思っている。

 

 

アートはポケモンみたいなもんで

 

もうひとつ、別の視点で今展に触れてみます。

 

まず、現代アートには、バトル漫画みたいな側面があって(そこが好きなんですが)、作品ひとつひとつが必殺技、能力名みたいなもんだと思ってます。

そして、いわゆる「アートの文脈」というモノは“属性”です。“属性”のポピュラーな例だと、火属性とか水属性と草属性とか。

 

もう少し具体的にいうと、美術史には時代ごとの傾向みたいなモノがあって、例えば「ポップアート」「シュルレアリスム」「ランドアート」とかがあって、この括弧書きが属性みたいだな、と。

 

もっと具体的な話をすると、
例えば、「ミニマリズム」という“属性”がある。

ミニマリズム」は、1920年ぐらいに生まれた“属性”で、それぞれの“属性”には誕生秘話があって、それぞれの時代とリンクしててこれがまたおもしろいところなんですが、吐きそうになるほど複雑なので今回は割愛します。

一応、こういうのです。

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‘Untitled’, Donald Judd, 1980 | Tate

 ミニマリズムポケモンみたいなもんですね)

 

また、現代アートには、過去に行なわれた表現をさらに新しく展開することで高く評価されるという側面があります(進化みたいなもんですね)。

 

例えば、ジェフ・クーンズの作品『Three Ball 50/50 Tank (Spalding Dr. J Silver Series)』は、「ミニマリズム」と、日常品(バスケットボール)をアートに利用する「ポップアート」の2つの属性を組み合わせて、能力を発動しています。(能力名:『Three Ball 50/50 Tank (Spalding Dr. J Silver Series)』)

 

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Jeff Koons - Artwork: Three Ball 50/50 Tank (Spalding Dr. J Silver Series)

 

あるいは、ダミアン・ハーストの作品『The Physical Impossibility of Death in the Mind of Someone Living, 1991』も、同じ属性の組み合わせかと思います(かつ、そこに動物の剥製を持ってくるというトチ狂ったアイデアが最高にカッコいいわけですが)。

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The Physical Impossibility of Death in the Mind of Someone Living - Damien Hirst

 

この“属性”が「現代アートは難しい」と言われる原因のひとつで、"ルール"でもあり、「知ってるともっと楽しくなる」要素です。

 

たとえば、去年、一大ブームを巻き起こしたMCラップバトルでは、勝敗を決する要素として、韻とフロウがあります。だけど、観客が湧くのはそれだけじゃない。明文化できない熱量だったり、対戦相手との関係性から生まれる言葉の応酬に心を打たれたりする。

 

“属性”(=「アートの文脈」)は、韻やフロウに近い気がしています。つまり、玄人向け。知ってるとより楽しめるモノ。感覚的にスゴイと思っても、何がどうスゴイのかを説明できるかどうかは別問題です(MCバトルを観始めたときは「あのフロウがやばい」って言われても、そもそも「フロウ」ってなんだよって思ってました)。

「いまのフロウはやばかった!」みたいな感覚が、Chim↑Pomの個展でもあって、それを伝えたいという話です。


今展の“属性”で、特筆したいのは「アプロプリエーション」で、「いまのアプロプリエーションはやばかった!」みたいな感覚があったんです。

 

「は?なに、専門用語だしてイキってんだよ?」って思うかもしれませんが…!まじでちょっと話を聞いてほしい。

 

まず、「アプロプリエーション」(appropriation、盗用)は、1980年代に発生した“属性”で、過去の著名な芸術作品や商業広告などの既存のイメージを作品に利用しながらも、もともとのイメージとは違う、別のイメージに再構築する手法です。

 

たとえば、シンディー・シャーマンという作家がその初期代表作家として名前がよく上がります。

シンディー・シャーマンは、広告写真のイメージを再構築し、別のイメージに置き換えました。つまり、広告写真っぽいイメージを、シンディー・シャーマン自身のポートレイト作品に導入して撮影したのです。

そうすることで、誰もがどこかで見たことのあるようなイメージとなると同時に、広告シーンにおける"女性像"を浮き彫りにしました。

それは「女性はこうであるべき」というような社会的な固定観念の裏返しです。その社会的な女性像を押し付ける風潮は、現代日本でも度々問題になりますが、そういった固定観念に対して一石を投じる表現でした。

 

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MoMA | Cindy Sherman | Gallery 2

 

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MoMA | Cindy Sherman | Gallery 2

 

Chim↑Pomは、この「アプロプリエーション」という属性を、巧みに、あるいは大胆に今展で導入してきました。

既存のイメージを再構築して、別のイメージに置き換える「アプロプリエーション」。

 

ここでChim↑Pomがアプロプリエーション(盗用し、イメージを別のものに)したのは、ひとつまえの展覧会(『明日もまた見てくれるかな?』)であり、その新宿の雑居ビルです。

 

これがもう、なんていうか、ただただシンプルに「やばすぎる」としか言えないし、Chim↑Pomほんと最高…カッコいいとしか…(語彙力の敗北)。

え、だって、自分たちで開催した展覧会をビルごとぶっ潰して、その巨大な瓦礫たちを素材とするっていうそのありえん規模感まじでぶっ飛んでて最高じゃないですか?

便器やブリロボックスといった既存のモノを別の文脈に置いてアートにする手法は、みんなが大好きなマルセル・デュシャンもアンディー・ウォーホルもやってるけど、その手法をChim↑Pomらしく、脳みそを鉄バットでスパコーーーンっ!とぶっ飛ばされるような常識はずれなインパクトでやってのけてて、それはもうほんと笑いながら「すげーな」って感動するような凄まじさ。

 

だって、この質量ですよ?

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The Road Show 2017
都内各地から集められた廃材と土による土壌モノリス、アクリル、キタコレビルの地下
photo:Kenji Morita
©Chim↑Pom Courtesy of the artist and MUJIN-TO Production, Tokyo

http://chimpom.jp/project/michi.html#k8

(会場の地下にある作品『The Road Show』。会場の土台は瓦礫を積み重ねて作っているが、それを真横から観ることができる作品)

 

破壊したビルの小石をチョロっと使ってすまし顔で「新作だぜ?」とかそんなレベルじゃなくて、場所をひとつ再構築して、しかも"道"っていうChim↑Pomにとって重要なテーマにもしっかりと接続してる。

 

「今までにないモノが観たい」というモチベーションでアート作品を日々観て回ってる僕としては、質量は特に大事で、肌感でやばさが実感できるモノ(とにかくでかいとか)はそれだけでもうテンション上がって脳汁ドバドバ出るっていう個人的な性癖もあるけど。

 

とりあえず、「このアプロプリエーションはやばい…!」っていう感覚。

しかも、欧米がルールとなるアートワールド(デュシャンやウォーホル)に対して、アホみたいなスケールでバチバチに殴りかかってて、重たい破格な一撃として、新しい表現展開として、評価されてくれ…!って思うわけです。

 

Chim↑Pomはいいぞ...

 

つまり、コレが↑言いたかった...!

 

...「カッコいい」モノって世の中たくさんあるけど、同時に、「強い」モノってあんまり知らなかったので、いつも以上にテンション上がりました。

10年続けて、しっかりと結果も出してて、それでこういう規模感に到達できるっていうのがなんだかいいことだな、と。

 

また、蛇足ですが、「スクラップ&ビルド」は、キュレーターであり、アートワールドの重要人物であるハンス・ウルリッヒ・オブリストが注目する「メタボリズム」にも通じるものがあると思っていて、

プロジェクト・ジャパン メタボリズムは語る…

プロジェクト・ジャパン メタボリズムは語る…

 

 

 “ここ”にも接続できるし、むしろ今回接続できたんじゃないかと勝手に喜んでますよ、僕は。

(このハンス・ウルリッヒ・オブリストは、ロンドンの美術雑誌『ArtReview』が毎年発表する「現代アート界で最も影響力のある人々」のランキングで、2016年度1位を獲得した人物です。 Power 100 / ArtReview

 

っていうことで、一応、展覧会を動画でいい感じにまとめたモノ(公式)があったので、共有しておきますね。2つの展覧会の雰囲気がなんとなくわかります。

 

www.youtube.com

 

社会的評価(主に、金銭面)がもっと上がることで、今後の作品展開もおもしろくなるだろうし、Chim↑Pomのカッコよさが伝わるといいなー。

 

 

 という話でした。