グロテスクだけどキュートなやつらが増殖中「夜行性の庭」 川野美華展

 

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川野美華 / Mika Kawano 「夜行性の庭 / Garden of nocturnal party」

 

私とあなたはまったく違う人間で、だからこそ共感はしないけど、

というかできないんだけど、それでも、不思議とあなたに心惹かれてしまう。

 

「コレ好き!」とか「カッコいい!」とか、

自分にとって心地良いモノ、“共感できる”モノはすごく大切だと思っている。

大切だし、そういうモノがすごく好き。僕はそういうモノにひとつでも多く出会いたくて、日々インターネットを徘徊し、本や雑誌を読み漁り、美術館やギャラリーにせっせと足を運んでいる。

 

そういう生活の中で、

偶然出会ったのが川野美華さんの作品です。

 

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“夜行性の庭 Ⅶ” 2014, 162 x 162cm, oil, beeswax, bead, clock hand on canvas

 

グロテスクで、

奇妙で、悪趣味。

そんな言葉がふと頭によぎるような作品で、初めて川野さんの作品を観たときは実際にそう思った。「なんだこれは…」と。とてもじゃないけど心地良い絵とは思えなくて、共感もしないしできないし、むしろ嫌悪感の方があったかもしれない。

 

悪夢の世界から這い出てきたかのような奇妙な生き物たち。思わず仰け反ってしまいそうなほどに生々しい血の色。理屈で説明できない不思議な造形は、理解を拒み、嫌悪という感情が生み出される。

 

「ナンナンデスカー…」と思いつつ、一方で、グロテスクで奇妙で不気味なモノに惹かれる人たちが一定層いるというのも知っているし、理解もしていたので、まぁそういうもんだろうと納得した。これはきっと趣味嗜好の問題だ。

 

その納得感が、見事にぶっ飛ばされるのがそのあとに観た川野美華さんの小品展だった。

それは30×30cmぐらいの小さな作品が並ぶ展覧会で、作品には奇妙な生き物たちがひとりずつブロマイドのように描かれていた。

そうしてふらりと会場のギャラリーを訪れてフラフラと作品を観て歩くうちに、ひとつの作品の前で思わず足をとめた。

というのも、生き物の頭に、ちょこんとリボンが付けられていたからだ。

 

…リボン?

 

その瞬間、

「ああ、そうか」と思い至る。

 

ベタベタと過剰に飾り立てるのではなく、

ちょこんと、ほんとにちょこんと、さりげなくなにげなく付けられた可愛らしいリボン。

それはまるで大切な妹や大事な友人に対するかのように、どこか優しく柔らかな手つきを不思議と感じさせた。作っているところを見たわけではないのでほんとに不思議なんだけど、そういうイメージが浮かんだ。

 

これはすごく単純な話で、こいつらは彼女にとってとても大切な存在であるということ。

おどろおどろしい奇怪な世界を描いているのではなく、彼女にとって大切なモノを描いているのだということ。

 

そこにあるモノは、

作品を通じて感じられることは、

こいつらに対する彼女の愛情のこもった眼差しだ。

これはとてもとても優しい絵なんだ。それでいて、なんというか、すごく不器用な絵なんだと思った。

不格好で不器用なやつらがぞろぞろと集まってきて、ワイワイと愉しげに騒いでいる。四方に血を飛び散らして爆ぜているファンキーなやつがいたのだけど、それはつまり、「いやー、うっかり飛び散っちゃってさー」「お前、またかよー」みたいな会話で笑い合うことが日常であるかのような、そういう世界。不器用なやつらの陽気な世界。

 

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"賢い乙女と愚かな乙女 Ⅱ" 2016, 162 x 162cm, oil, bead, chain on canvas
 

そう思っちゃうともうダメで(いや、ダメじゃないけど)、

気がつけば、その賑やかで愉しげなバカ騒ぎに心惹かれている自分がいた。

その表情や動きは、鳥獣戯画やお化けの絵巻に通じるような、どこかユーモラスでおもしろくて、微笑ましいというかなんというか、ニヤニヤが止まらなくなる。ちょっとした悪だくみの共犯関係のような感覚。それでいて、なんかこう歪んだ感じがふにゃふにゃした印象でなんとも可愛らしく思えてくるのである。とうとう思う、こいつらとお友達になりたいぞと。

 

そうやって「おもしろいやつらがいるぞ」とその愉快な物語に思いを馳せながら観るのがすごく楽しい。楽しいしそれにワクワクする。「いいもんだなー」としみじみ。でも、そう思って、そう思いながら観るんだけど、作品をじっくりと観初めてぼんやりと思うのは、たぶん、きっと、自由気ままに遊ぶこいつらは、この世界の残酷さを知らない。

なんとなくだけどそう思った。

 

もちろんそんなもん知らんでもいいんだけど、

じゃあ、誰が知っているのか。

というと、それが、川野美華さん…なんだと思う。

 

ゆらゆらと漂う繊細な毛や髪などの線は、そっと優しく触れるだけで血が出るんじゃないかというほど緊張感のある細さなんだけど、でもなめらかな動きは流れるようですごくきれいなんだ。あるいは、様々な生き物たちが入り乱れながらもうっとおしくない構図と人肌色の温かな余白が魅力的だったりする。

そういったひとつひとつの細かい要素にはキラリと光る意志(=意図)のようなものがあって、それはつまり、この世界がたとえ敵に回ろうともお前らを守り通すんだという強い意志であり、この世界の残酷さを一手に引き受けてそれでも踏み止まるための技術力のこと。

 

これはもう想像でしかなく、僕の勝手な楽しい楽しい妄想でしかないけど、例えば不格好で不器用なあいつらがひとりでフラフラと街中を彷徨い歩くと、現実という大波が大挙し押し寄せて一瞬で踏み潰していくんだろうと想像する。それはどうしたって悲しいし泣きたくなるから、絶対に嫌だから守りたいから、そうならないために彼女は、毅然として、日々キャンバスや絵筆と向き合っているのかもしれないなーと。

 

 

……。

…我ながら妄想がすぎる…と思いつつ、文章を書けば書くほど彼らが好きになっちゃって、なんだかもう止まんなくて…。なんていうか、その、えっと、…楽しいです。

 

まあ、

つまりですね、

長々と文章を書いて何がしたいんだ?っていうと、

川野美華さんの個展(しかも、大作展)が銀座で今まさにやっている(1/10-1/28)ので、ぜひ観てほしいってこと!※こちらは2017年執筆の記事なのでもう終わってますよ!ご注意を!( 川野美華 / Mika Kawano 「夜行性の庭 / Garden of nocturnal party」 ) 基本的に100号以上で大きい作品ばかりなので、超いいぞ!オススメだぞ!めったにないぞ!

 

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今週末、あるいは来週末、いやいやもちろん平日でも、時間があればぜひ!11:00~19:00です!以上!

 

「生き物には、私の中でのアトリビュートがある。ひとりひとりが私の感情の象徴です。日常を生きていて、ある物や出来事に出会ったときに生まれる感情。そういった日常の中で出会う感情にかたちを与えています。彼らは、気兼ねなく相談できたり一緒に何かを企んだりできるような、共感し合えるとても近い存在であり、夜な夜な妄想するように描いています」by川野美華