人生ではじめて感情を止めたいと思った演劇の話 | マームとジプシー『sheep sleep sharp』

 

「人生でいちばん感動した瞬間は?」

 と聞かれたら、

豊島美術館内藤礼さんの作品を観たとき」と答えるようにしている。

 

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benesse-artsite.jp

 

豊島美術館は、とてもきれいで、穏やかで、静かで、

内藤礼さんの『母型』は、一瞬一秒たりとも同じ表情を見せない。

だからこそ、ずっと観ていたいと思える、ここにいたいと思える、とてもワクワクするような場所だ。

でも、「きれいだな」「素敵だな」と思う一方で、こんな場所を作ってしまうヒトに対して、ちょっとした恐怖感も覚えた。それほど、豊島美術館は、この世界にとって異質だった。

 

だから、

「人生でいちばん感動した瞬間は?」

と聞かれたら、

豊島美術館内藤礼さんの作品を観たとき」と答えるようにしようと思った。

 

それが、たしか、2013年とかその頃。

 

それから4年経って、2017年の5月初旬。

新宿のLUMINE0で、マームとジプシーの『sheep sleep sharp』を観た僕は、

 

「人生でいちばん感情がやばかった瞬間は?」

と聞かれたら、

「マームとジプシーの『sheep sleep sharp』を観たとき」と、今後は答えることに決めた。

 

https://obs.line-scdn.net/hd1eAuJJIJx91VDQROgIgZiQmMSd0WCxOZQx0cHU9bSxwDXgYNFdxfn9tYCcmW3lOYFgxf346MiZ2WA/m800x1200

sheep-sleep-sharp

 

「マームとジプシー」とボク

 

『sheep sleep sharp』は、藤田貴大さんが脚本と演出を務める演劇団体「マームとジプシー」による演劇作品。

 

演劇を観るのは、これが3回目。

 

ひとつはコレ。

www.parco-play.com

 

窪塚洋介 × イサム・ノグチ」という組み合わせに惹かれて観に行った記憶がある。

 

そして、もうひとつがコレ。

mum-gypsy.com

 

これは知り合いに誘われて観に行った。

 

寺山修司 × マームとジプシー」という組み合わせ。

“才能”にそもそも興味があるので、寺山修司は当然として、マームとジプシーの藤田貴大さんという若い演出家がいるということは、なんとなく知ってはいた。

 

『書を捨てよ町へ出よう』のときは、独特なリズムの台詞まわしに「なんだこりゃ、すげーな」と感じつつも、アジテーションとして、演劇はやっぱり優れているんだなーっていうことが強く印象に残った。

 

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 【ELLE】 「ミナ ペルホネン」長江 青の日記| 「書を捨てよ町へ出よう」マームとジプシー|エル公式ブログ

 

最後の、拳銃を撃つ瞬間、なによりも“身体”が高揚したことを今でも覚えている。

感情ではなく、“身体”が高揚した。あるいは、反応した。

それは、高揚というよりも、何かに突き動かされるような熱量に犯された瞬間だったのかもしれない。

 

『書を捨てよ町へ出よう』の舞台は、学生運動が盛んだった70年代(だったと記憶している)。

もしも僕が、政治や社会に対する鬱屈とした感情が漂う70年代に生きていて、敵対すべき憎悪の対象もしっかりと見定めていて、その時代にマームとジプシーの『書を捨てよ町へ出よう』を観ていたとしたら。

きっと、僕は、最後の銃声に触発され、劇場を駆け出して、銃を片手にテロルへと突撃していたに違いない。

 

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書を捨てよ町へ出よう | マームとジプシー

 

と、妄想する程度には、『書を捨てよ町へ出よう』の最後の銃声と、そこに至るまでの不思議な物語や演出によって、僕の感情はかき乱されていて、前後不覚というか、完全に僕のコントロール下を離れてしまっていた。

 

とにかく、あの銃声がすごくよかった。

つまり、「音は、耳だけでなく、皮膚でも感じられる」ということを実感した瞬間だった。

 

それは同時に、演劇だからこそでもあって、

「演劇っておもしろい(すごい)(やばい)かも…」

と思ったのがそのとき(いやまあ、世の中的にはもう散々っぱら言われてることですが...)。

 

 

それをきっかけとして「行こうかな」と思っていた次の『蜷川幸雄 × 藤田貴大』は、ご存知の通り、上演延期になってしまって。

そこから、一旦、演劇に触れる機会はなくなり、1年半ぐらいが経った。

 

が、ちょうど『sheep sleep sharp』の公演が始まるってことで、そのことに気付いたのがとある日の12時頃とかで、チケットの販売もその日の12時頃とかだったので、「あ、買える」と思って、買った。即座に。

 

そして、観に行った。

 

結果、むちゃくちゃよかった。

「人生でいちばん感情がやばかった瞬間は?」と聞かれたら、「マームとジプシーの『sheep sleep sharp』を観たとき」と、今後は答えよう!と固く誓うほどに。

 

豊島美術館のすごさは観に行ったことのあるひとはわかると思うけど、“あの美術館”と同列に語りたくなるほど「まじでやばかった」です。

 

もちろん、それぞれから感じ取った感覚はまったくの別モノではあるけれど、僕が人生で出会ったマスターピースBEST3は、今のところ、『豊島美術館(内藤礼「母型」)』と『sheep sleep sharp』です(3つ目はまだ空位)。

 

ヒトは、たとえ「嫌だ!」と叫んでも、感情が動く

 

『書を捨てよ町へ出よう』とは違って、『sheep sleep sharp』は、マームとジプシーの藤田貴大さんによる完全オリジナル作品。

閉鎖的な空間が理屈や個人的な感情を超えて奇妙な狂気を生み出すような、そんな作品でした。

 

物語については、正直、「アレは一体なんだったのか?」と、もっとちゃんとゆっくりと考えたいなーって感じではありますが(ただ、ヒントがないのでもう一回観たい)、劇中はもうただただ夢中になって、あの舞台を、観ていた。

 

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女優の青柳いづみさんが、静かに(しかし、確実に異様に)行儀よく椅子に座っているところから物語はスタートした。結局、その静けさと異様さは、終始、劇場に蔓延しへばり付いていたわけだけど。

 

そんな鬱々とした演劇のラストに、ある種のカタストロフィーとして、

www.youtube.com

コレ↑が流れたときは、もう本当に気が狂いそうだった。

 

というのも、

「というのも」というか、

 

『sheep sleep sharp』と対峙している間ずっと、役者の動きや仕草、台詞、そのイントネーション、BGM、物語のテンポ、絶叫、灯り、繰り返される会話など、そういった演劇が積み重ねる要素ひとつひとつに、感情が何かの反応をしていた。

嫌でも反応する。どこか奇妙な"それら"にどうしようもなく反応する。勝手に、感情が。嫌でも。

正直、死ぬかと思った。

 

ご存知の通り、ヒトは外的変化に影響を受けて、勝手に感情が動くもんだ。

 

そして、演劇は、映画や漫画と違って、いくつかの物語・現象・外的変化が、同じ瞬間に同じ舞台で起こっても、成立するんだと実感した。

漫画や映画は、1コマずつ物語と感情が進んでいく直線的な芸術作品だ。

つまり、1コマ・1フレームに詰め込められる情報量には限界がある。破綻するから。

 

しかし、演劇は違う(と思った)。

まったく違う感情の物語であっても、同じ瞬間に同じ舞台でも成立しうる。

だから、「悲しい」とか「やばい」とか「かっこいい」とか、アホみたいな量の、別々の感情がぶわっと一気に押し寄せる。眼や耳、そして皮膚によって。

たとえ「嫌だ」「やめろ」と叫んでも。

 

それに加えて、『sheep sleep sharp』には、奇妙で独特な、役者の動きや仕草、台詞、そのイントネーション、BGM、物語のテンポ、絶叫、灯り、繰り返される会話がある。つまり、藤田さんの演出だ。ひとつひとつが感情を逆なでる。

それらが、小さな町で起こった、少女による連続殺人の物語とリンクする。

 

www.youtube.com

 

そして、そのラストで、この曲だ。

「違う、違う、そうじゃない。そうじゃないはずだ!」と思いながらも、

「この物語は残酷だったはずだ、救いなんてどこにもなかったはずだ」と思いながらも、

それでも、最後になってようやく、たしかに希望をどこかに見出したような視点もあった。

 

絶望の感情と、希望の感情。

そういうぐちゃぐちゃとした感覚。

なんというか、笑いすぎて(息ができなくて)死にそうになることがあるけど、『sheep sleep sharp』は、それに近い感覚だったというか、感情(感動ではなく)が止まらなくて、観ていて本当に苦しかった。死ぬかと思った。やばかった。

 

それは、きっと、“場の空気”(という抽象的な言葉ですまん)を、眼や耳、そして皮膚で感じられる(感じざるをえない)演劇だからこそなんだろうなって。

 

 

 

『sheep sleep sharp』は、ほんとに、ほんとに、よかった。

いまだに、ちょっとまだ引きずってる。「あれはなんだったんだろう?」とか、ふとあのときの感覚を思い出して、ドキドキしたりしてる。

 

だから、「人生でいちばん感情がやばかった瞬間は?」 と聞かれたら、

「マームとジプシーの『sheep sleep sharp』を観たとき」と、今後は答えることに決めました。

 ほんとによかったです。