「装幀家・水戸部功」特集・編集後記
9月は「装幀家・水戸部功」特集でした。
いやあ、楽しい。『Pen 』 2014年 6/15号 [美しいブック・デザイン] を読んで、愛読書『虐殺器官』の装幀を手がけた人物の名前を知った。それが、水戸部功さんだった。
「『虐殺器官』は僕の聖書!」と公言しているのだけど、「あの特徴的な表紙デザインは誰が作ったの?」と、『Pen』を読むまで思わなかったことは我が人生、一生の不覚。
『虐殺器官』を始めとした水戸部さんの装幀を見ると、なんか「こだわり」のようなモノを感じて、「いつか『Sphinx』で特集したい!」と即決。本大好き!とか思ってるくせに、装幀なんて気にしたことなかったわけですが、もうね、調べれば調べるほどおもしろい世界でございました。
水戸部さん以前の10人は、けっこう結論ありきでスタートして、調べ物は確認と肉付けでしかなかったのだけど、水戸部さん特集はゼロベーススタートで。まだまだ若手の装幀家なので、自伝を出しているわけでもなく、ネット上にインタビューがあるわけでもなく。『idea』という雑誌に掲載された3ページのインタビューを元に掘って掘って掘りまくる作業。ってか、この『idea』という雑誌、むちゃくちゃいい。ちょうど若手装幀家8人の特集を組んでくださっていたんだけど、今時そんな特集あるかい(笑)ほんと感謝です。
そのインタビューを読んだ時点で、高浜虚子の『深は新なり』と『客観写生』という言葉がふと浮かんで、「こりゃおもしろい記事になるぞー」とワクワクしたものです。「本とは何か」とか「メディアアート」とか「バウハウス」とか「タイポグラフィティ」とか「装幀=建築」とか「菊地信義」とか、展開できる切り口が多すぎて、むちゃくちゃテンション上がった記憶が。「ミニマルに到達して、装飾という武器を排除して」って、それって完全に茶の湯の概念じゃん、とか。茶の湯には躙口っていうのがあって、刀掛けに刀をかけないと引っかかって入れないっていう。千利休は、「武士である」という装飾を排した関係性においてコミュニケーションを追求しましたみたいな。さすがにそっちまで持っていくのは今回は諦めましたが。
『Pen』もそうだけど、雑誌のよさって「そことそこが繋がんのかよ!」みたいな知的興奮なんですよ。いわゆる「切り口」っていうことなんだけど。
まあ、でも、どうやらWebメディアだと難しいらしいなああああ。
リンクで飛ばすと、ストーリー(今回でいえば、水戸部というストーリー)が途切れちゃうらしい。かと言って、ひとつの文章に詰め込むと…今回みたいに失敗する(ゲフンゲフン)もっと考えないといけないですね…
まあ、でも、(2回目)
まだまだ不十分ですし、もっとおもしろいモノに出来たと思うけど、それでも装幀特集をやってよかったなーとしみじみ思うわけです。不遜なことを言えば、ちょっとだけ「いい装幀」というのがわかった気がします。少なくとも、書店をフラフラしていて、「おっ」と思う瞬間が多くなりました。そういう心が動く瞬間が増えるっていうのはすごくいいことで、僕の人生として「豊かだなー」と思うわけです。
菊地信義さんとの出会い(=本の中で、だけど)もすごく素敵でした。「デザインを学ぶというよりは、デザインに惹かれる自分を見つめ、自分のデザインをつくり出していくしかない」という菊地信義さんの言葉は、偶然か必然か、「深は新なり」と同じ(だと思う)。懐古厨で本好きで身体性大好き人間としては、やっぱり本の質感とか手触りとかにこだわってらっしゃる様子は、「ふむふむ、私は間違ってない!」と嬉しいわけで。
あと、「本は心をつくる道具、心をささえる杖でもあるのです」と、「いいな、と感じる一瞬が好きなのです」という菊地信義の言葉(記事未掲載)も「うわーー!!めっちゃいいーーー!!!!こと言うてるーー!!!!」ともう嬉しく嬉しくてね。「心をつくる」っていうのは自分でも言葉にしていたけど、「心をささえる杖」という言葉は、表現の仕方は、「ああ、ほんとそうだよなああ…」と、自分では言葉にできなかった。そういう感覚はあったのだけど。
『Sphinx』は結局、心の杖をありったけかき集めろ!ってことが言いたいわけで、つまり、自分にとっての『ヒーロー』を探せ!ってことになる。「これだけは…!」と強く思えるような何か。つまり、これ→すがりついているモノ - ぐちゃぐちゃと書き殴る。 けっこう核心ついてると思うんだけどなー。ちゃんと伝える努力しないとなああ。
んで、「それって編集力だよなー」となんだか一周しました、最近。自分の心が惹かれるモノを、みんなにもわかるようにパッケージング(編集)して「どう?おもしろいと思うんだけど?」と提出する。どうすれば伝わるのか?とか、どうすれば読んでくれるのか?とか、色々と。基本的なことだが、媒体として実物がある分、よりちょっと具体的にも考えられるのが楽しい。まあ、本気で読んでほしかったらメディアのタイトルを『Sphinx』から『芸術が今の時代を生きる上で大切な理由』とかにした方がいいんでしょうけど。
とりあえず、ほんと今回も楽しかった!これに尽きます。
で、次回予告じゃないけど、次もめちゃくちゃおもしろいはず。
もうすでに、僕の大好きな映画『イノセンス』との関係性も見えてきて、これまたおもしろい記事にしますし、扱う作家さんが作家さんなだけにちゃんと伝え方を考えないとなあああ。