テクスチャー(肌触り)を楽しむということ。

 

「テクスチャーを楽しむ」という言葉を、僕はSF作家の伊藤計劃から教わった。テクスチャーとは、この世界の質感であり、肌触りである。この世界の楽しみ方のひとつとして、この世界の肌触りを楽しむことがあり、「テクスチャーを楽しむこと」ができるようになると、日常がもっともっと豊かなものになる。

僕はそんなちょっとした確信を抱く。

 

この映画は実に様々な驚きを、感動を与えてくれます。これほど豊かなアニメ、いや映画はそうあるものではありません。私にとってこの「人狼」は間違いなく傑作です。そこには「世界に感動する視線」が間違いなく存在しているからです。昭和30年代が、映画にとって魅力的な「異世界」であることを証明する。この映画は異様とも思えるディテールへの配慮でそれを成し遂げています。デパートの屋上の遊園地。アドバルーン。低く蜘蛛の巣のように張り巡らされた電線。様々なディテールを動員してこの映画は既に失われ、それゆえにファンタジーとなった過去の空気を観客に伝えます。

ブレードランナー」が感動的なのは、決してアンドロイドが生命の意味を伝えるとかそういったことではなく、人間の肉体がひしめくストリートの膨大なディテール、セバスチャンの部屋に並ぶガラクタ、街路から出てくるスモーク、そういった小さな「部品」が凄い密度で組み合わされたその「空気」です。「人狼」は昭和30年代の街を想像して描けるありとあらゆるディテールを描写しています。

私はそういう感動の種類を「テクスチャーを楽しむ」と呼んでいます。何かの対象の「肌触り」を慈しむ感情。その微妙さ、きめ細かさ、それのもたらす「驚き」。このことは今までの「ランニングピクチャー」でも何度か言ってきたことですが、「肌触り」に感動し、涙を流してくれる人がもっと増えることを切に願い、またそれを伝えるに「人狼」が(近年まれに見る)相応しい映画であったということで、改めてお伝えしたいのです。by伊藤計劃

 

 

先日、美術監督種田陽平さんの特集がNHKの『プロフェッショナル』で放送されていた。(種田陽平(2014年8月25日放送) | NHK プロフェッショナル 仕事の流儀)その番組の中での種田陽平さんの言葉「世界は極限の細部から出来ている」や「細部を突き詰めた先に、立ち上がってくる空間こそが、映画を見る人に強いイメージを与え、記憶に残るものになる」などは、映画好きの伊藤計劃が大切だと感じていたことときっと同じなのだろう。

 

僕らが知らぬ間に通りすぎている、この世界の細かさ。

そして、その細かさの積み重ねで立ち上ってくる、この世界の美しさ。

僕らは、この世界の肌触りをどこまで楽しめるのだろうか?

 

 

世界の肌触りについて。

先週、夏休みを利用して高野山に行ってきました。

弘法大師空海が修行の地とした日本仏教の聖地のひとつ。117のお寺が立ち並び、山々の中で今もひっそりと時を刻む宗教都市・高野山。まるで世界から切り離されたかのようなそんな場所で、さらに神聖な空間として『奥の院』という、弘法大師の御廟と灯籠堂がある。そこに至るまでの参道には、武田信玄伊達政宗豊臣秀吉織田信長などの有名な戦国武将たち、親鸞法然松尾芭蕉市川團十郎などが眠っている墓碑がある。

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死者の世界へ-高野山・奥の院 - 写真共有サイト「フォト蔵」

 

鬱蒼とした木々によって空は狭く、虫の鳴き声すらない静寂に包まれ、墓碑は長い年月によって朽ち、苔むしている。「緑豊かな森と静寂によって自然の美しさを感じる」のともまた違う、それだけじゃない「何か」が『奥の院』には立ち上っていた。

「テクスチャー」は「空気感」「世界観」と言い換えてもいいのかもしれない。

例えば、宮﨑駿監督『もののけ姫』の世界観が好きなひとは、きっと『奥の院』も好きになるに違いない。

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ふと墓碑の苔が気になったので、写真を撮ってみた。

 

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この世界のきめ細かさ。

細かさによって立ち上ってくる「世界」に、我々が足を踏み入れたとき、ひとつの感動が込み上がってくる。その感動は、静かで、とても小さい。まるで感動が心のなかにじわーと染みわたるようだ。時間が止まったかのような静けさと悠久の歴史が積み重なった木々や苔があり、それによって実感する『奥の院』の美しさ。もしも、あの『奥の院』の佇まいを、目で見て、耳で聞いて、鼻で匂って、肌で感じて、感動して静かに涙を流すことがあれば、人としてそれはほんとうに豊かであると思う。老いたのち、そういう人になっていたいと強く願う。

 

 

種田陽平さんが美術監督として手がけたperfumeの『ClingCling』。

『プロフェッショナル』番組内で紹介されていたもの。

 

「テクスチャーを楽しむってこういうことか!」と実感した映画が、『300 <スリーハンドレッド>』というペルシア戦争を題材にした映画。それこそ、『300』や帝政ローマ時代の戦争を描いた『グラディエーター』といった映画は、どうせ「鎧をまとった屈強な兄ちゃんが痛快なバトルシーンを演出し、つけ合わせ程度になんか美女と恋に落ちてどうのこうの」みたいな映画でしょ?と食わず嫌いだったのだけど、兄が居間で観ていた『300』に偶然出会い、気づけばラストシーンまで。

スパルタVSペルシャの戦争なのだけど、当時の世界がひとつの映像美とテクニックによって作り込まれている。 特に、この時代のペルシャ側の装飾がむちゃくちゃかっこいい。映像としてもスロー再生を多様しているので、より細かいところに目がいく。そういった世界の魅せ方という丁寧さによって、僕らはその世界観に酔いしれることができる。『300』で映し出される世界は、かっこよすぎてテンションが上がり、ピリピリと肌を突き刺すように全身から汗が吹き出してくる。感動が全身を走り抜けるシーンが「これでもか!」というほどに詰め込まれている。

続編『300<スリーハンドレッド> ~帝国の進撃~』の制作舞台裏映像。

 

6/22に公開!なので、もう終わっちゃってるのが残念…

ぜひとも劇場の大スクリーンで観たかったものである。

 

白クマが泳いでいるところを見られるという水槽の前でじっと待っていたが、白クマは現れず。大人はガッカリ気味だったけど、息子は水槽自体が気に入ったようで、ずっと見つめていた。 
子供は自由な発想で自由に思いをはせている。
本当に素敵なことだ。 via twitter

 

「ストーリーを楽しむ」のも素晴らしいけど、「テクスチャーを楽しむ」ということもまた素敵なことです。