虐殺の王が身に纏ったオード・トワレ『PENHALIGON'S』
ぼくはそのことについて思い返す。ルツィアの部屋にいるあいだ、指輪、写真立て、雑誌、散らかり具合、掃除の程度、男の臭いを探ったものの、ついにそれを見つけられなかった。
しかし、ヒトという種の鈍磨した器官しか持たないぼくとは違って、センサのほうは男性の痕跡を発見していた。(中略)
ベンハリガンのオード・トワレ。男性向けの香水だ。
「彼女の前じゃ、ジョン・ポールもかっこつけようと思うのかね」
ウィリアムズが皮肉る。(伊藤計劃『虐殺器官』より)
っていうことで、
買っちゃいました。
とりあえず、店員さんが定番と言ってたペンハリガンの『BLENHEIM BOUQUET』。
そもそも、ペンハリガンは英国王室御用達の香水メーカーらしくて(←素敵!)、この『BLENHEIM BOUQUET』はあのウィストン・チャーチルも愛用していたのだとか(←素敵!)。
…とはいえ、いつもの香水予算の5倍の値段っていうね…ああ…
でも、もうずっと、ずっとずっと欲しいなあーって思ってて、このたびとある勢いで買っちゃいました。
ジョン・ポール
虐殺の王(ロード・オブ・ジェノサイド)
もちろん、虐殺はフィクションであるべきで、現実で起こってはならない悲劇だ。
しかし、それでも、ジョン・ポールの正義を、覚悟を、美学を、僕は美しいと感じている。それはもうどうしようもなく。ジョン・ポールの選択は、どこまでも人間臭くて、だからこそ、残酷で切ない。
「どうしてこうなっちまうんだ」というやるせなさと、「ああ、そうだよな」という納得感。そうした矛盾を抱えて、ジョン・ポールは『虐殺の文法』を語り、世界を虐殺の大渦へと引きずり込んでいく。僕らのデリバリー・ピザと引き換えに。
時代と己の正義が違えたとき、ヒーローはヴィランへと転落する。
その切なさ。儚さ。悔しさ。それらは、どうしようもないほどに込み上げる。「ああ…、もう!なんでなんだよ、ちくしょう…!」と声に出したって構わない。
誰かが自分にとって大切な何かを守ろうと必死になっているというのに、その一方で、自分が何を守りたいのかもわからない“誰か”の集合体が正義で常識で大勢で、ちっぽけな個人はその大波に飲み込まれてしまう。
だからこそ、僕にとって、ジョン・ポールはヒーローなんだ。
それは、悲劇的で、許しがたい物語のヒーローだけど。
それでも、その根底に流れるヒーローの物語を僕は愛する。
僕にとってのヒーローの、そんなヒーローの香りを纏えたら、という願望。
心が折れそうなとき、自信がどっかに吹っ飛んじゃったとき、その香りを嗅ぐことで強くなれるんじゃないかという僕なりの遊び心。その体現。「心地いいモノ」に囲まれて生きていきたいという理想のための一手。
きっと、ペンハリガンの香水をつけるたび、なんだかニヤニヤしちゃうんだろうな。