鉄の「肌触り」を愛する鍛冶屋・倉田光吾郎

倉田光吾郎という鍛冶屋。

『クラタス』という巨大ロボットを作った『水道橋重工』のひとり。

『1/1スコープドッグ』の製作工程を自身のサイト「なんでも作るよ。」で紹介したことで有名になった。他にも、高炉モニュメントや『カストロール1号』を作るなど、その制作範囲は広い。

http://suidobashijuko.jp/images/gallery_pic_07.jpg

水道橋重工 | Suidobashi Heavy Industryより)

「巨大ロボット」というロマン。少年ならば、誰もが憧れる存在にちがいない。

子どもの頃、多くの男子諸君が夢を見て、結局は子どもの夢としてたち消えたその重厚な機械群。ウィーンという駆動音を出しながら、ガシャンガシャンと金属音を打ち鳴らす。一歩を踏み出すたびに地響きのように大地が揺れる。そんな巨大ロボットに搭乗し、凶悪な殺戮ロボットと対峙する少年たち。それは大切な人を守るために。

巨大ロボット『クラタス』を作り出した倉田光吾郎さんの「見たい世界」は、「お金を払ったらアニメに出てくるようなロボットが買える世界であり、それを日本が作って、日本発のロボット時代を到来させるんだ!」ということ。そのために、巨大ロボットは個人でも作れるんだと示すべく制作の様子を公開したり、amazonでも注文できるようにしたり。(Amazon.co.jp: クラタス スターターキット: ホビー:現在は在庫切れ)

「誰でも巨大ロボットに乗れる世界」というイメージを他人に伝えるためには、相応の技術や努力が必要だ。やりたい!という感情だけでは伝わらない。人間ならではの知識や技術が求められる。倉田光吾郎さんの場合、その技術とは「西洋鍛冶」だ。彼は元々、鍛冶屋なのである。

 

この「西洋鍛冶」というものがめちゃくちゃおもしろい。

てっきり倉田さんはロボットロボットしている方なのかなーと最初は思っていて、「巨大ロボット作っちゃうのすごい!素敵!」でこのエントリも終わる予定だったのですが、完全に予定変更しちゃいます。倉田さんはポケモンでいえば、鉄タイプだし、ジョブでいえば、鍛冶屋のようです。ぶっちゃけ、そっちの方もだいぶオモシロイ(おい)

だって、こういうの作っちゃったり。

IRON WORK - TRANFER - ギャラリー

こういうの作っちゃったり。

IRON WORK - TRANFER - ギャラリー

とか、完全に鉄の人。アイアンマンですよ。

倉田さんのホームページで、鉄の鍛造の流れみたいなのが丁寧に載っているんだけど、それが超かっこいい。今更だけど、そういや鉄を使ったモノづくりもあるんだなーと感心した次第であります。鉄を熱して成形しやすくして、叩いて伸ばして捻って、あれやこれやで鉄の棒をひとつの作品にするという芸術。鍛冶屋っていう響きがそもそもかっこいいし。

めっちゃわかりやすいので、鍛冶屋に興味ある方はぜひ

→(鉄と仕事、鍛鉄、鍛造って?

 

結果、こういうのを仕事で作ってるみたい。

なんというか、「あー、見たことあるー」感すごい。

↑この門とか鉄門界では前衛なんでしょうか…

鍛冶屋スゴイ。あるいは、1/1スコープドッグやクラタス以前にも初の鉄作品であるベースギターで公募展佳作を頂いているようなので、倉田さんの鍛冶屋スキルが素晴らしいのでしょう。1/1スコープドッグやクラタスの製作工程がネットで読める(根性試しに作る。もう待てない。)けど、「めんどくさい」とか言いながらも細かいところまでしっかりとこだわり抜いているのはさすがの職人魂か。

 

しかし、ですね。

倉田光吾郎さんが、その「個性」を発揮するのはここから。

倉田さんの職人技✕芸術魂の掛け合わせはそうとうえげつない。

もちろん、「クラタス」を生み出したことはすごい。けど、倉田さんの芸術はそれだけに終わらない。
実は、もうひとつの顔を持っている。

 

 


Brothers Quay 1986- Street of Crocodiles - YouTube

これです。

ブラザーズ・クエイによる『ストリート・オブ・クロコダイル』。

僕も初めて知った兄弟なんですけど、マニアの間ではカルト的な人気だとか。

かれこれ10年くらい、作る作るといいつつ頓挫したものがある。
すげー有名な人形アニメがあって、"Street of Clocodeil"というんだけど、かなりショッキングだった。
俺が鉄で作ればスゲーのが出来るぜ、と思ったその頃。こんな人達に憧れていた。

この人達からしてデザインがヤバイ双子なんだけど。
彼らの人形アニメはやっぱりヤバイ凄さ。

 

憧れでは不十分。


「この人達からしてデザインがヤバイ双子なんだけど」って(笑)

倉田さんは、10代の頃に、このデザインのヤバイ2人組の映像作家と出会い、その世界観に惹かれ魅せられてしまったようなんですね。『ストリート・オブ・クロコダイル』は、薄汚れた鉄の街で、鉄のネジが踊るように動き、怪しげな人形が埃をかぶり、内臓つきの懐中時計やらが登場する人形アニメーション。暗くて重い、そんな退廃的な世界だ。その世界にハマった倉田さん。「クラタス」からは想像もできないけど、「西洋鍛冶職人」の父親を持ち、子どもの頃から「鉄」に触れてきたことを考えると、妙な納得感がある。上記の鉄作品のような、カラスの不気味な鳴き声が似合いそうな門やら何やらを目にする機会はきっと多かったのでしょう。

 

『ストリート・オブ・クロコダイル』に影響されて作った作品たち。

憧れでは不十分。

このダークな質感。独特の世界観。

SF作家・伊藤計劃は言う。

ブレードランナー」が感動的なのは、決してアンドロイドが生命の意味を伝えるとかそういったことではなく、人間の肉体がひしめくストリートの膨大なディティール、セバスチャンの部屋に並ぶガラクタ、街路から出てくるスモーク、そういった小さな「部品」が凄い密度で組み合わされたその「空気」です。(中略)私はそういう感動の種類を「テクスチャーを楽しむ」と呼んでいます。何かの対象の「肌触り」を慈しむ感情。その微妙さ、きめ細かさ、それのもたらす「驚き」。「肌触り」に感動し、涙を流してくれる人がもっと増えることを切に願う。

 

ブラザーズ・クエイが愛した「空気」や「肌触り」が『ストリート・オブ・クロコダイル』には詰まっていて、その「肌触り」に感動する人たちがいて。例えば、映画においてストーリーで感動するのも素敵なことですが、その作品に漂う「肌触り」に感動するのもまた素敵なことじゃないでしょうか。そして、その「肌触り」はとても個人的な感動であり、小さな感動なのかもしれない。倉田光吾郎さんが、「鉄」が持つ独特のダークな世界に魅了されるように。

 

そして、もうそれは僕を興奮させて仕方がないのだけど、どうも「聖林館」という場所があるらしいのですよ。まあ、ピザ屋みたいですね。下の写真。

どうやら倉田光吾郎さんが設計したピザ屋らしいのですが、

そのときの指示がですね…

柿沼氏の要望では、”もう地獄みたいに、滅茶苦茶にしてください”という感じではあったのだけれども、
ちなみにデザインイメージは、精神病院。
「ピザ屋を作ると思ってほしくない、地獄みたいな倉田さんのドロドロした感じを全部出してくれ」

http://ironwork.jp/monkey_farm/seirinnknan/other2.htm

「ちなみにデザインイメージは、精神病院」はヤバイ。嘘でしょ?

「倉田さんのドロドロした感じ」って、そもそもその影響って『ストリート・オブ・クロコダイル』であり、ブラザーズ・クエイなわけでしょ?そのダークな世界観がピザ屋としてこの現実世界に存在してるだと…?しかも、「どうせもう閉店しちゃってるだろうなあ」と思って調べたら、(聖林館 (セイリンカン) - 中目黒/ピザ [食べログ])まだやってる!!!これは行くしかない!!!もうむちゃくちゃだわ!(笑)

 

いやー。

「クラタス」はどこへ(笑)