映画『インターステラー』から、SFにおけるヴィランとは?

書こう書こうと思いながらも1ヶ月ほど経っちゃいましたが、映画『インターステラー』についての感想と、SFにおけるヴィラン(悪役)とは誰かという話をして、「だからSFっておもしろいよね!」ということを書きます。

 


映画『インターステラー』最新予告編 - YouTube


映画『インターステラー』オフィシャルサイト

 

 ストーリーとしては、まあきっと大方の想像通りで、地球が滅亡しちゃうから優秀なお父さんパイロットが娘を残して人類を救うために宇宙へと飛び立つっていう感じで、現代版『アルマゲドン+21世紀宇宙の旅』と言ったところでしょうか。細かいところで色々と言いたいこともあるのだけど、極限状態での人間のちっぽけさとか、アンハサウェイと同じ宇宙空間で何十年何百年も一緒にいるってむちゃくちゃ幸せじゃね?とかあるのだけど、とりあえずまともな『インターステラー』論としてはコレ↓がいいと思う。


思想家 東浩紀が感動した父娘の物語『インターステラー』の到達点 - 映画インタビュー : CINRA.NET

いつか、映画監督という映画製作の流れで映画論を書いてみたいもんです。

一応、偶然にも、『メメント』も『インセプション』も『21世紀宇宙の旅』も観てるんだけどなーー、映画監督という視点は一切抜けていた時期なのでサッパリわかんなかった。

 

さて。

僕が語れるのは、ヒーローについて。

そして、ヒーローにとっての(皮肉にも)存在証明でもあるヴィラン(悪役)について、だ。

物語のあるところに、必ずこのヒーローvsヴィランの対立構造が現れる。

 

インターステラー』のヒーローは、当然ながら、宇宙飛行士のクーパー。

そして、上映中にこの映画のヴィランを認識したとき、背筋がゾクッと震えた。地球滅亡というのもストーリー上のヴィランになりえるが、クーパーにとって最も大切なのは、自分の娘であるマーフであり、極論、地球よりもマーフだ。マーフが生きてさえいれば、地球がどうなってもいい。

だから、クーパーの娘に対する愛に共感している僕が思わずゾッとしたのは、「地球外での1時間が地球での7年分に相当する」というどうしようもない事実だった(正確にはとある惑星での時間だが)。つまり、映画『インターステラー』に登場するヴィランは、「1時間=7年」という残酷にも呆気なく過ぎ去る時間だった。父親のクーパーが宇宙へと飛び立ったとき、マーフは10歳である。80歳で死亡すると仮定して、タイムリミットは70年=たったの10時間だ。最初の惑星でそれを自覚しているがゆえに焦るクーパーの姿を見せつけられ、「時間の経過」という人類には到底手も足も出ないような事象の恐ろしさを改めて痛感した。ほんとうに、痛いほどに。

そして、さらには、その極めつけは、(詳しいトラブル・状況は忘れたけど)現状打破の解決策を必死に模索するクルーたちの熱い議論の果てに叫ばれた言葉、「次元を超えるしかない…!」という結論、とその絶望感。マーフを救うには、4次元に生きる人類が5次元に到達すること。しかも、今すぐに。もうなんかその結論が出ちゃった瞬間に涙が溢れてきちゃって、「ああ、もう…なんなんだ、ちくしょー…」と、立ちはだかるヴィランの絶望的な強さには無力感しかなかったよ。

 

映画『インターステラー』のヴィランとは、そういう「物理法則」であり「科学」だ。そしてそれは同時にSFにおけるヴィランでもあり、SFのおもしろさはココにある。つまり、SFとは(言うまでもなく、今さらだが)Science Fictionなのである。Scienceとは「①A=B、②A=C、③B=C」の世界であり、人類がどんなに「B=Cは嫌だ、頼むからやめてくれ…!」と言っても、どんなに父親が娘に対する愛を叫ぼうとも、「いや、B=Cだから」と冷たく突き放す世界だ。SFは物語を科学的に構築する。科学的検証によって出された結論はむちゃくちゃ正論で、もうそれしかないという結末だ。たとえその結論が人類の感情としてどんなに許容できなくとも。その残酷さがSFのおもしろさだ。「A=B、A=C、だからB=C」というある種の暴力性が、SFにおけるヴィランの圧倒的な強さと立ちはだかる絶望感となる。

 

「いやそうなんだけどさ…、」という葛藤のような心境、SFは人類の(特に僕の)心をむちゃくちゃにぐちゃぐちゃにする。それがまた中毒性があって病み付きになるのだけど。SFのおもしろさは、「SFはもしもの世界」であったり、人類あるいは生命規模というストーリーとしてのスケール感があって「自意識を吹き飛ばす装置」としてはむちゃくちゃ優等生だったりと、色々と他にもおもしろい要素があるわけですが、映画『インターステラー』を観て、SFにおけるヴィランとその絶望的な暴力性を痛感したので、今回はその魅力を少しでも伝えることができたら嬉しいなああー、と。

 

ちなみに、SFの暴力性という意味でのオススメは、

星を継ぐもの (創元SF文庫)

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 と、

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

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