「surreal」に魅せられた映像作家・Rino Stefano Tagliafierro
Rino Stefano Tagliafierroという映像作家
フリーランスの映像作家で、実験映像やミュージックビデオ、ファッションブランドの広告映像を手掛ける。2011年以降、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭など、数々の賞を受賞。イタリア出身。
少しまえに日本のネットでバズったことのある映像がある。
言わずもがな、上の映像なのだけど。某バイラルメディアでは、fbでのシェア数が8710のようです。すごいですね。モーフィングという映像技術が使われているようですが、まあそのあたりは割愛することにします。非現実的な動きをする2人の少女に「美しさ」を感じる、そういう映像。
とあるインタビューでのRinoさん(とお呼びすればいいのかな)の言葉。
注目したいのは「I love to transform reality into something new and surreal」のところ。特に、surreal。Rinoさんにとって「surreal」はものすごく大きな快感原則なんだと思う。日本語でいえば、「超現実(主義)的な」という意味。あるいは、「シュールレアリズム」とカタカナ英語で言われるモノ。20世紀の美術界で流行った制作思想・方法のことである。「超現実」という言葉通り、「非現実」ではなく、あくまでも現実の延長として存在する。
例えば、こういうの。
【絵画】超現実的な一枚【シュルレアリスム】 - NAVER まとめ
【写真】超現実的な一枚【シュルレアリスム】 - NAVER まとめ
ちなみに、「surreal」でgoogle画像検索すると、「surreal」な画像がたくさん出てくるのでオススメです。「ああ、こういうのね」って感覚で理解できるかと。
フロイトっていう精神分析学者が、無意識という概念を発見したことによって、シュールレアリズムが生まれたといっても過言ではない。夢や無意識、非合理といった心の世界を探求し、それを表現するのがシュールレアリズム。「夢」を例にするとわかりやすいけど、「夢」は現実に起きた経験・記憶の組み合わせによって構成されている。現実の断片ごっちゃ混ぜ。だから、そこを追求すること(つまり、夢や無意識などを作品のテーマにすること)は、現実の延長として、奇妙な世界となる。しかし、あくまでもシュールレアリズムは現実の延長なのである。
そして、Rinoさんは現実をシュールレアリズムに変えることに(おそらく)興味がある。特に、上記の映像の4分15秒以降で、少女2人がぐにゃぐにゃになりながら階段から落ちるシーンがあるのだけど、めっちゃシュールレアリズムっぽい。サルバドール・ダリっぽい。そのぐにゃぐにゃにモーフィング技術を加えることで、奇妙だけど美しい映像に仕上がっている。妙な動きが癖になる。
そして、もうひとつ。シュールレアリズムの他にも、Rinoさんにとっての快感原則、つまりどうしようもなく心惹かれるモノがあったりする。それは残酷趣味。例えば、Rinoさんは2006年に『SNUFF MOVIE』という作品を作っている。かなり初期の作品。「SNUFF(あるいはSNUFF FILM)」とは、実際の殺人の様子を撮影した映像作品のこと。まあ、グロ耐性のない僕にとって、これ以上は踏み込みたくない領域なのだけど。しかし、Rinoさんの作品を見ていると、血とかそういう描写が多い。たぶん、なんとなく、予想でしかないけど、Rinoさんはそういうのに惹かれちゃう人なんだろうなあ、と。上記の少女たちの映像も、ハサミで喉を掻っ切るような仕草があるし、あとで紹介する『BEAUTY』という作品でも首を切るシーンがある。詳しくはこっち→(rino stefano tagliafierro brings master paintings to life)
Rinoさんはシュールレアリズムと残酷趣味が快感原則で、心惹かれてしまうのではないか。この2つがRinoさんにとっての核心であり、興味関心・好き嫌いなのではないか。ということを前提に話を進めるけど、残念なことに、多くの人にとってその2つは快感原則ではない。これが社会とのズレ。「この犬カワイイ!!」と同じレベルで、Rinoさんの『SNUFF MOVIE』がシェアされるはずがない。だけど、Rinoさんが制作した『M+A “MY SUPER8"』という映像はシェアされるどころか、賞まで受賞している。僕はこれをコミュニケーション能力の向上、あるいは社会との接点を見出すことに成功したと考える。つまり、「美しさ」でねじ伏せた。それが「美術」である。
モーフィング技術(あるいは、それ以外にもあるかもしれない)という「美しさ」によって、社会をねじ伏せ、自分の興味関心・好き嫌いを認めさせた。他人にとって無関心なモノや他人が嫌悪するモノを「美しさ」に変える技術。社会と自分の欲望との接点・妥協点を探ること。自分の快感原則の根本は何で、社会との共通点は何か?それを上手く伝えるためにはどうすればいいのか?美しさとは何か?自分の快感原則を伝えるための努力をすることが「芸術」なのだと思う。
ORAX "ROCKERS" from Rino Stefano Tagliafierro on Vimeo.
ちなみに、↑は、Rinoさんの最高傑作だと思う一作。
モーフィングあり、シュールレアリズムあり、許容できる残酷趣味ありで、Rinoさん好み全開で、むちゃくちゃかっこいい作品。ORAXというバンド(?)のMVなのかな。
で、最新作はこれ。
B E A U T Y - dir. Rino Stefano Tagliafierro from Rino Stefano Tagliafierro on Vimeo.
完全に人類の完敗でしょ。もう「美」そのもの。
モーフィング技術で、凍ったままだった古典絵画を現代に甦らせた。
「シュールレアリズム」とか「残酷趣味」はどこいった?という感じではあるが、この記事を読んだら納得感ある。(An interview with Rino Stefano Tagliafierro on 'Beauty', the animation video with paintings moving - Swide)Rinoさんはイタリア出身なので、古典絵画に触れる機会は子どもの頃からあったのでしょう。ORAX 『ROCKERS』で感じる「人間の肉体感」や、00:50秒あたりの白パンロン毛のイエス・キリストっぽさは、古典絵画の影響が感じられる。そこからどうしてシュールレアリズムにいくのかちょっとわかんないけど…上記のインタビューでは、「What do you want to be when you grow up?」と聞かれて、「Dalì, Dream Caused by the Flight of a Bee Around a Pomegranate a Second Before Awakening」と答えているので好きなんだろうなあ、ダリ。あと、「Your favourite one that you didn’t include(video)」の答えが妙に残酷なのが気になる。
あと、たぶんだけど、Rinoさん、日本好きだわ。
「If you weren’t Rino Stefano Tagliafierro, what would you be?」
の答えが、「Yoshimoto Nara」なのは嬉しい限り。