「surreal」に魅せられた映像作家・Rino Stefano Tagliafierro

Rino Stefano Tagliafierroという映像作家

フリーランスの映像作家で、実験映像やミュージックビデオ、ファッションブランドの広告映像を手掛ける。2011年以降、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭など、数々の賞を受賞。イタリア出身。

少しまえに日本のネットでバズったことのある映像がある。

言わずもがな、上の映像なのだけど。某バイラルメディアでは、fbでのシェア数が8710のようです。すごいですね。モーフィングという映像技術が使われているようですが、まあそのあたりは割愛することにします。非現実的な動きをする2人の少女に「美しさ」を感じる、そういう映像。

I love to transform reality into something new and surreal, and I’ve often put myself to the test with music videos for Italian and international artists such as Four Tet, Stumbleine, Digitalism, Mobbing, M+A, Orax, Fabri Fibra, Morgan and Big Fish. Within the fashion world, I have made videos for Antonio Marras and Kenzo.

An interview with Rino Stefano Tagliafierro on 'Beauty', the animation video with paintings moving - Swide

とあるインタビューでのRinoさん(とお呼びすればいいのかな)の言葉。

注目したいのは「I love to transform reality into something new and surreal」のところ。特に、surreal。Rinoさんにとって「surreal」はものすごく大きな快感原則なんだと思う。日本語でいえば、「超現実(主義)的な」という意味。あるいは、「シュールレアリズム」とカタカナ英語で言われるモノ。20世紀の美術界で流行った制作思想・方法のことである。「超現実」という言葉通り、「非現実」ではなく、あくまでも現実の延長として存在する。

例えば、こういうの。

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ジョルジョ・デ・キリコ

 

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 サルバドール・ダリ

 

【絵画】超現実的な一枚【シュルレアリスム】 - NAVER まとめ

【写真】超現実的な一枚【シュルレアリスム】 - NAVER まとめ

ちなみに、「surreal」でgoogle画像検索すると、「surreal」な画像がたくさん出てくるのでオススメです。「ああ、こういうのね」って感覚で理解できるかと。

フロイトっていう精神分析学者が、無意識という概念を発見したことによって、シュールレアリズムが生まれたといっても過言ではない。夢や無意識、非合理といった心の世界を探求し、それを表現するのがシュールレアリズム。「夢」を例にするとわかりやすいけど、「夢」は現実に起きた経験・記憶の組み合わせによって構成されている。現実の断片ごっちゃ混ぜ。だから、そこを追求すること(つまり、夢や無意識などを作品のテーマにすること)は、現実の延長として、奇妙な世界となる。しかし、あくまでもシュールレアリズムは現実の延長なのである。

そして、Rinoさんは現実をシュールレアリズムに変えることに(おそらく)興味がある。特に、上記の映像の4分15秒以降で、少女2人がぐにゃぐにゃになりながら階段から落ちるシーンがあるのだけど、めっちゃシュールレアリズムっぽい。サルバドール・ダリっぽい。そのぐにゃぐにゃにモーフィング技術を加えることで、奇妙だけど美しい映像に仕上がっている。妙な動きが癖になる。

 

そして、もうひとつ。シュールレアリズムの他にも、Rinoさんにとっての快感原則、つまりどうしようもなく心惹かれるモノがあったりする。それは残酷趣味。例えば、Rinoさんは2006年に『SNUFF MOVIE』という作品を作っている。かなり初期の作品。「SNUFF(あるいはSNUFF FILM)」とは、実際の殺人の様子を撮影した映像作品のこと。まあ、グロ耐性のない僕にとって、これ以上は踏み込みたくない領域なのだけど。しかし、Rinoさんの作品を見ていると、血とかそういう描写が多い。たぶん、なんとなく、予想でしかないけど、Rinoさんはそういうのに惹かれちゃう人なんだろうなあ、と。上記の少女たちの映像も、ハサミで喉を掻っ切るような仕草があるし、あとで紹介する『BEAUTY』という作品でも首を切るシーンがある。詳しくはこっち→(rino stefano tagliafierro brings master paintings to life

 

Rinoさんはシュールレアリズムと残酷趣味が快感原則で、心惹かれてしまうのではないか。この2つがRinoさんにとっての核心であり、興味関心・好き嫌いなのではないか。ということを前提に話を進めるけど、残念なことに、多くの人にとってその2つは快感原則ではない。これが社会とのズレ。「この犬カワイイ!!」と同じレベルで、Rinoさんの『SNUFF MOVIE』がシェアされるはずがない。だけど、Rinoさんが制作した『M+A “MY SUPER8"』という映像はシェアされるどころか、賞まで受賞している。僕はこれをコミュニケーション能力の向上、あるいは社会との接点を見出すことに成功したと考える。つまり、「美しさ」でねじ伏せた。それが「美術」である。

 

モーフィング技術(あるいは、それ以外にもあるかもしれない)という「美しさ」によって、社会をねじ伏せ、自分の興味関心・好き嫌いを認めさせた。他人にとって無関心なモノや他人が嫌悪するモノを「美しさ」に変える技術。社会と自分の欲望との接点・妥協点を探ること。自分の快感原則の根本は何で、社会との共通点は何か?それを上手く伝えるためにはどうすればいいのか?美しさとは何か?自分の快感原則を伝えるための努力をすることが「芸術」なのだと思う。

 

ORAX "ROCKERS" from Rino Stefano Tagliafierro on Vimeo.

ちなみに、↑は、Rinoさんの最高傑作だと思う一作。

モーフィングあり、シュールレアリズムあり、許容できる残酷趣味ありで、Rinoさん好み全開で、むちゃくちゃかっこいい作品。ORAXというバンド(?)のMVなのかな。

 

で、最新作はこれ。

B E A U T Y - dir. Rino Stefano Tagliafierro from Rino Stefano Tagliafierro on Vimeo.

 

完全に人類の完敗でしょ。もう「美」そのもの。

モーフィング技術で、凍ったままだった古典絵画を現代に甦らせた。

シュールレアリズム」とか「残酷趣味」はどこいった?という感じではあるが、この記事を読んだら納得感ある。(An interview with Rino Stefano Tagliafierro on 'Beauty', the animation video with paintings moving - SwideRinoさんはイタリア出身なので、古典絵画に触れる機会は子どもの頃からあったのでしょう。ORAX 『ROCKERS』で感じる「人間の肉体感」や、00:50秒あたりの白パンロン毛のイエス・キリストっぽさは、古典絵画の影響が感じられる。そこからどうしてシュールレアリズムにいくのかちょっとわかんないけど…上記のインタビューでは、「What do you want to be when you grow up?」と聞かれて、「Dalì, Dream Caused by the Flight of a Bee Around a Pomegranate a Second Before Awakening」と答えているので好きなんだろうなあ、ダリ。あと、「Your favourite one that you didn’t include(video)」の答えが妙に残酷なのが気になる。

 

あと、たぶんだけど、Rinoさん、日本好きだわ。

「If you weren’t Rino Stefano Tagliafierro, what would you be?」

の答えが、「Yoshimoto Nara」なのは嬉しい限り。

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