英国と小説家と気分について

画家や小説家などを含めた意味での芸術家たちが、その国や時代の雰囲気に対応して作品を生み出すということを前提とする。そうであるならば、どことなく残酷で陰鬱な感じの作品(僕好み)が多く存在するイギリスという国の“雰囲気”とは一体なんだろうか?ロンドン旅行の目的のひとつは、それを体感すること・探ることにあったのだけど、到着早々に「ああ、そりゃそうだわ」と納得感が生まれた。ヒースロー空港からロンドン郊外に到着したのは、夕刻。日は沈み、あたりは暗くなり始めていた。お宿はロンドンの中心部にあるホステルを予約していたけど、ロンドン郊外に住んでいる方のお宅を訪ねる用事があったので、慣れない電車を乗り継ぎ、ふらふらと向かった。電車の中から眺める景色やホームで電車を待つ間に出会う景色は、あたりは完全に暗闇に包まれていたこともあって、お化け屋敷(ホーンテッドマンション)のように佇む街並みと細くひ弱な印象の木々の陰でしかなく、この“雰囲気”に毎日毎日出会うことはそこに住む人々の心境に大きな影響が与えているように感じた。それがたとえ無意識だったとしても。
ロンドン旅行3日目の昼間には、英国出身の偉大な小説家たちが多く住んでいたと言われるチェルシーという地域に足を運んでみた。チェルシーに限らずロンドン中心部の雰囲気もそうだけど、古風な建物(と言えば、聞こえがいいが、それはもうボロボロでしかない見た目)や街中で見かけるゴミや落書きなどの汚らしさは、ホーンテッドマンション的な雰囲気に通じるような陰鬱さ(それ以外の語彙はないものか)を醸し出している。長時間飛行の影響もあるだろうけど、僕はそのロンドンの雰囲気を感じて、到着して2日ほどはすごく体調というか、気分が悪かった。そういったロンドンの街並みや雰囲気、もっといえば素敵な美術館などが多くあるロンドンという街はすごく好きだけど、(在住の方々には申し訳ないながらも)気が狂いそうだから住みたくはないなあ、と身勝手ながらに感じたものでした。もちろん、ロンドンの街並みの造形は、無条件に心が踊るほど素敵だったわけで、ほんとうにいい街で大好きです。

あとは、天気とかも陰鬱感をいい感じに演出してるよなあ。とりあえず曇り空がデフォルト。雨もたまにパラパラ。晴れたらラッキー!みたいな。僕自身、旅の経験があまりないので比べることがあまりできないんだけど、去年の夏にいった直島旅行はめっちゃリフレッシュできた!という印象があって、旅=バカンス的なリフレッシュというイメージが大きかった僕にとって、今回のロンドン旅行はリフレッシュ感がまったくなかった。直島はつねに晴天で美しい島々や海がたくさんあったからこそリフレッシュできたわけであって、旅=リフレッシュではないのだな、と。そういう意味での「気分」でいえば、直島在住の方の作品と、ロンドン在住の方の作品では、まったく違うモノができるというのはあたりまえのこと。

 

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話を少し戻して、チェルシーを歩いていると、改めて「気分」というモノのおもしろさに辿り着きました。「たしかにこの街に住んでいたら、なにがしかの鬱憤のようなモノが溜まって小説を書きたくなるだろうなあ」と思ったりとかして、「ってことは、例えば自分の部屋をチェルシー風にすれば小説執筆の意欲が湧いてくるのかも」という結論に至った。「気分」は外的環境に大きく依存しているという前提に立てば、環境の方を構築すれば常になにがしかの気分を演出できる。そういう意味で、建築という“環境”はすごく大事であるし、もっといえば身につけるファッションや小物、はたまた発言の数々まで無意識のところで影響を与えているのかもしれない。

「気分」というモノはおもしろい。
数年前に、当時注目していたもっちーさんという起業家(?)の方が「集中力」について、その考え方を書いていたのだけど、「ノイズを減らす」というのは、「設定したなにがしかの方向性という“その気分”を損ねるようなモノを減らす」ということなのかもしれない。

僕は、個人における成功要因の多くは、集中力だと思ってる。才能や技術があっても、目の前の物事に集中できなければ良い仕事はできない。集中力というのは身体性のコンディショニングに影響を受けるから、毎日どう過ごしているか、何を考えて生きているかという、本人の思想や哲学が少しずつ反映されていく。それが分かっている経営者の人たちは、トレーニングをしたり、普段から意識的にノイズを減らして考えるべきことをシンプルにしている。byもっちーさん