悪人

 

悪人 スタンダード・エディション [DVD]

悪人 スタンダード・エディション [DVD]

 

 

時々、重さを持った映画に出会うことがある。重い打撃をじわじわと与えてくる映画。そして、それはたいてい邦画であることが多い。きっと役者が日本人だから感情移入しやすいんだと思うけど、「悪人」もまさにそんな映画だった。まあ、予想はしていたけど。「悪人」のストーリーは殺人犯と恋人の逃避行、と言ってしまえばとても簡単で、被害者の父親が復讐を果たそうとしたり、殺人犯の家族がメディアの食い物にされたり、どこまでも予想の範囲を出ないストーリーなんだけど、それでもこの映画は重い。「ああ、はいはい、そういう展開ね。わかりますわかります」とならずに、じわじわとストーリーが心と脳を捕らえて離さなくなるのは、各役者たちの演技力が大きい。男に捨てられて狂い始める満島ひかりの演技から始まり、幸薄な雰囲気を存分に醸し出す深津絵里非モテで無口なんだけどいいやつな妻夫木などなど。妻夫木のおばあちゃんが恐喝されるシーンも迫力あったね。あれはコワイよ。あと、バスの運転手がメディアの方々にキレるところも、「ああ、人がキレるときってこういう感じだよな」って思った。

結局、人を殺した妻夫木も、殺人犯の逃走を誘導&補佐した深津も、路上に女の子を置き去りにした岡田も、自分の快楽を優先して相手の気持ちもわからない満島も、老人たちを騙して脅してお金を稼いでる人たちも、殺人犯の家族に昼夜問わず取材をするメディアの方々も、精神的弱さから妻に八つ当たりをしちゃう被害者のお父さんも、他人が死んでそれをヘラヘラ笑ってる友人に対してキレて机をぶっ壊しちゃう青年も、大小あるけどみんな「悪人」なんだよね。正直、殺人犯と一緒に逃亡している姉に心配している様子を見せながらも、「殺人犯だから」と決め込んでる妹さんも僕にとっては「悪人」に思えた。あれだ。わかった。この映画で僕が気持ち悪い(=悪人)と感じたのは、「他人の気持ちを理解しようとしない人たち」だ。それが積み重なって、ものすごく気持ち悪くて、あとに引きずる感じの映画になってたんだ。

あるいは「殺人は殺人だろ?」と思うけど、今後テレビで「出会い系殺人」のニュースがあったら、妻夫木くんと深津絵里のような愛の逃避行を想像しちゃうかもしれない。「出会い系殺人事件」というレッテルだけを人々は見ているけど、その表層の下では、幸せになりたくて必死になってる人たちがいて、でもどこかで人生の歯車が狂ってしまって。


映画 『悪人』 予告編 プロモ映像 - YouTube

「あんた、大切な人はおるね?その人の幸せな様子を想うだけで自分まで嬉しくなってくるような人。今の世の中、大切な人がおらん人間が多すぎる」

柄本明演じる被害者の父親の台詞が刺さりすぎて泣いたなー…

いい映画でしたよ。鑑賞後、何もしたくなくて、ぼっーとしてた。