その時代、暴力で世界は変えられると信じていた

キャッチコピーは「その時代、暴力で世界は変えられると信じていた」。

妻夫木&松山ケンイチの「マイ・バック・ページ」。1960年代後半から70年代初期における実際の物語を映画したもの。「安保闘争」「東大安田講堂事件」「学生運動」「全共闘」「左翼」「右翼」…こういった言葉を聞いたことはあったし、学生たちが何かに反対してバリケードをつくったり、警察と衝突してた、という曖昧な認識だった。5分ほどWiki調べしたところによると、「学生運動」とは、活動家と呼ばれる学生たちが組織をつくって反戦や授業料値上げ反対、日米安全保障条約への反対などをビラとか演説とかで主張していた行動のこと。それが時々熱気を帯びて、「安保闘争(=日米安全保障条約に反対するデモ)」「東大安田講堂事件(=日米安保や大学の授業料など不平不満を主張して、バリケードで籠城)」に発展した。

60年代の「安保闘争」や70年代の「東大安田講堂事件」が終末を迎えた時代。それが「マイ・バック・ページ」の時代背景。ジャーナリストと活動家の学生の話なんだけど、当時の街並みや学生運動の様子、人間の汚い側面、映画の状況(つまり、描写)によって当時の人々の心境を描く場面、そういったモノが色濃く描かれていて、映画としての質が高いと感じた。少なくとも、なんていうのか、僕はこういう映画と出会うために映画を観ている。

松山ケンイチ演じる梅山が糞野郎すぎて最高。最近、マルクスを含めた哲学史を勉強していることもあって、当時の活動家(哲学を勉強している学生)はほんとうにああいう喋り方だったんだろうな、と思った。松山ケンイチの演技がたぶん上手すぎるわけなんだけど。哲学もそうだけど、言葉遊びみたいなところもあって、それが梅山は上手い。そして、「本物になりたい」梅山がその言葉という武器を使って、人を動かしてそれが映画の事件へとつながっていく。個人的には、梅山は「本物になりたい」というような発言を何回か言っていたけど、彼がほんとうに本物になりたかったどうかは疑わしいと思ってる。彼にとって「運動」は、ファッションでしかなかった。少し突飛な話だけど、彼の「学生運動」と現在(2013年)における学生の「起業運動」は同じ匂いがする。「起業しようと思っているんだよね(=革命を起こそうと思っているんだよね)」は、(時代は違えど)まったく同じ心境から生まれてくるもので、それは他人から承認されたいという欲求でしかない。前園という京大全共闘の議長が登場するんだけど(まあ、たぶん偉い人)、その前園と梅山の関係性(というか、梅山の一方的な心情)が、「有名な起業家の方とお話をしてきました!ドヤ」とfbに投稿する今時の学生と同じような気持ち悪さを感じる。ファッションとして流行りの学生運動を身にまとった梅山にとって「ーである」ことが大切で、「ーをした」は必要ない。けど、なんか引っ込みがつかなくなってきて、気付けば転がり落ちるように事件だけが起こってしまった。梅山の組織(赤邦軍)に所属している安宅重子という女子学生と、梅山がイチャついてるシーンがあって、それを観て僕は確信しました。梅山は、「運動とかよくわからないけど、なんかすごそうだなあ」と思っている頭の悪い女の子をちょろまかしてイチャつきたいだけなんだ、と(僕個人としての僻み…だと…?)。まあ、女の子にモテるモテないはともかく、70年代における「学生運動」は周囲に対するアピールとしての「学生運動」だったのでは?梅山という頭の回転と言葉の使い方が上手な学生が、自分の承認欲求を満たすために「活動家」を語り、結果として悲惨な事件を引き起こした。映画を観ていて感じたのは、「マイ・バック・ページ」の時代では「学生運動」は社会的にはもう下火で、心の何処かでまだ革命を期待しちゃってる赤邦軍の学生たちと若手ジャーナリストの妻夫木の「何かを成し遂げたい」「本物になりたい」という欲求があっただけ。気持ちだけは無駄に大きく持っていて、だけどビビって何もできなくて、それでも、周囲から認められたいから何かを成し遂げたくて悶々としている。この気持ちって、正直ちょっとわかる。映画の最後、妻夫木演じる沢田が涙を流すシーン、正直映画を観ているときは理由がわかんなくて感情移入できなかったんだけど、じっくりと映画のことを考えた今ならわかるかも。以前の知り合いで等身大を生きている居酒屋の店長と出会って、沢田はきっとようやく自分の浅はかな欲求に気付いた(と僕は解釈した)んだと思う。

学生運動の時代風景や沢田や学生たちの承認欲求、そして「学生運動」に対する世間の興味が低下していることを暗に理解させる状況(映画の描写)は映画としてのおもしろさであると思うし、松山ケンイチ演じる梅山の糞野郎さがとても上手い映画でした。

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